コラム

ハラスメント(パワハラ)防止法~中小企業2022年4月1日施行・義務化~

ハラスメント(パワハラ)防止法の正式名称は「労働施策総合推進法」という。2019年6月に公布された。
ハラスメント防止法では、パワハラの基準を法律によって定めることで、企業側に相談窓口の設置や再発防止策などを求めているものである。正規雇用者のみではなく、全労働者と対象として定められている。
2021年9月時点、大企業においては2021年6月1日より施行されており、中小企業においては努力義務期間ではあるが、2022年4月1日から施行が決定している。

1.厚生労働省が定めているパワーハラスメントの3要素
次の3つの要素をすべて満たす行為がパワハラとなる。
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
(3)労働者の就業環境が害されるもの

「優越的な関係を背景とした言動」とは、職務上の地位が上の社員から管下社員に対する発言や行動のことの他、同僚や部下からの言動であっても、その社員が業務上必要な知識や経験を有している場合や、同僚や部下からの集団的な行為で、抵抗や拒絶することができない場合は優越的な関係を背景とした言動となりえる。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、社会通念上、明らかに業務上の必要がない行為や業務の目的を逸脱した行為、業務遂行の手段として不適切な行為のことを指す。たとえ相手が問題行為をしていたとしても、叱責だけでなく人格を否定するような言動をすれば、その行為はパワハラとなるため、教育や指導の名目であっても、社会通念上、許容される範囲を超えていれば、パワハラと認められる可能性がある。

「労働者の就業環境が害されるもの」とは、労働者が受けた言動によって身体的、精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に悪影響が出るなどの支障が生じることで、パワハラであるか否かの判断基準は、社会一般の労働者が同様の状況でその言動を受けた場合に、就業する上で看過できないほどの支障が生じると感じるかどうかで左右される。

2.厚労省が示す代表的な言動の6類型
(1)身体的な攻撃
暴行や障害のことを指す。具体的な行動例は以下の通り。
・殴打や足蹴り
・物で頭を叩く
・相手に物を投げつける
<該当しないと考えられる例>
・誤ってぶつかってしまう

(2)精神的な攻撃
脅迫や名誉毀損、侮辱、暴言などがこれに当たる。
・人格を否定するような言動
・必要以上に長時間にわたる激しい叱責を行う
・他の従業員の前で大声で威圧的な叱責や罵倒をする
・相手の能力を否定したり、罵倒するような内容を含む電子メールを複数の労働者宛に送信する
<該当しないと考えられる例>
・遅刻など社会的ルールを欠いた行動や、ほかの労働者が傷つくような度を超えた悪口が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意
・企業の業務の内容や性質に照らして、重大な問題行動のあった労働者に強く注意

(3)人間関係からの切り離し
自分の意に沿わない労働者の隔離や仲間外し、無視などの言動はこれに当たる。
・業務から外し、長時間にわたって別室に隔離したり、自宅研修をさせる
・一人の労働者に対して集団で無視をする
<該当しないと考えられる例>
・新規に採用した労働者の育成のために、短期間集中的に別室で研修などの教育を実施する
・懲戒規定にもとづき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、一時的に別室で必要な研修を受けさせる

(4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制すること。
・肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で勤務に直接関係ない作業を命じる
・新卒採用者に必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業績目標を課す
・業務とは関係のない私的な雑用の処理を行わせる
<該当しないと考えられる例>
・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する

(5)過小な要求
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと。
・退職させたいなどの理由から管理職である労働者に誰でも遂行可能な業務を行わせる
・気に入らない労働者に対して仕事を与えない
<該当しないと考えられる例>
・労働者を育成するために、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
・業務の繁忙期に、業務上の必要性から当該業務の担当者に、通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる

(6)個の侵害
プライベートに過度に立ち入ること。
・職場外でも継続的に監視をする
・私物の写真撮影をする
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療など機微な個人情報を承諾を得ずに他の労働者に公開する
<該当しないと考えられる例>
・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況などについてヒアリングをする
・労働者の了解を得て、当該労働者の病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し配慮を促す

3.ハラスメント防止法で課せられている企業の4つの義務
(1)企業の方針等の明確化とその周知、啓発
企業としてパワハラを防止するための方針を明確にし、労働者に周知・啓発しなければならない。労働者に周知させるための具体的な方法は基本方針の策定だけではなく、企業ルール、禁止事項等を明確にした社内規程の策定、そしてパワハラの具体例や気をつけるべき状況などを取り入れた説明、研修、講習の実施が必要である。

(2)相談に応じ、適切に対応する必要な体制整備
労働者から相談があった場合に適切に対処できる体制を整えること。具体的には、相談窓口の設置や相談を受けた際の対応手順を決めたりすること。また、相談窓口の担当者への研修を実施するほか、その他の部署や機関との連携方法をあらかじめ細かく決めておく必要がある。

(3)事後の迅速かつ適切な対応
実際にパワハラについて相談があった際の行動を意味するものである。具体的な対応方法は以下の通り。
・事実関係を正確に把握する
・事実が確認できた場合には、パワハラ被害者に対して休暇や補償などの配慮措置をとる
・事実が確認できた場合には、加害者に対して注意や配置転換、懲戒処分などの措置をとる
・再発防止のため、改めて方針の周知・啓発を行う

(4)併せて講ずべ措置
上記3つの措置と併せて行う措置が4つ目の義務となる。相談することに抵抗を感じ、事実を隠してしまうことを防ぐための措置のことを指す。具体的には、相談者や行為者、目撃者のプライバシーを保護することの他、相談したことによって不利益な扱いを受けることを防ぐための周知や啓発を指す。

4.中小企業が今の時点で取り組むべき対策
①職場のパワーハラスメント防止対策を効果的に進められるように、職場の実態を把握するためのアンケート調査を早い段階で実施する。アンケート調査は、パワーハラスメントの有無や従業員の意識の把握に加え、パワーハラスメントについて職場で話題にしたり、働きやすい職場環境づくりについて考える貴重な機会にもなる。
②調査手法として、紙や電子ファイルでの実施に加え、インターネット上で実施する仕組みもある。(調査は匿名での実施がより効果的と思われる。)
※インターネット上では、無料又は低額のアプリケーションサービスプロバイダーを利用し、簡便にアンケートを作成・実施ができるものもある。
③パワーハラスメント防止対策の枠組みを構築した後に、再度アンケート調査を実施することで、効果を検証することが望ましいといえる。

5.参考
厚生労働省が作った「あかるい職場応援団」というウェブサイトで、ハラスメントに対する様々な情報を得ることができます。自分がパワハラの行為者になってしまう可能性や、パワハラが発生しやすい職場環境かどうかを調べるチェックリストは特におすすめです。

(画像一部引用:どんなパワハラかチェック(管理職の方)