コラム

金融サービス仲介業~創設背景から業務範囲~

1.金融サービス仲介業の創設背景
2020年6月12日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、名称が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、新しく「金融サービス仲介業」が創設されました。
これにより、2021年11月1日から、これまで金融商品仲介、保険募集といったそれぞれの金融分野でサービスを提供していた事業者が新制度のもとで、金融サービス仲介業として、1つの登録を受けることにより、複数の業種の金融機関(銀行、証券又は保険)が金融サービスをワンストップで提供することが可能となるものです。
想定されるビジネスモデルとしては、例えば、クラウド会計ソフトを提供する事業者が、クラウド会計ソフトのユーザーである個人事業主、中小企業等に対して、クラウド会計ソフトに蓄積されたデータに基づいて、借入可能額、金利等の条件を試算した上で融資を受けることを提案し、提携先の銀行に紹介したり、福利厚生のための団体保険や事業リスク低減のための損害保険を提案したりするサービスも考えられています。

2.金融サービス仲介業の業務範囲
「金融サービスの提供に関する法律」(以下「改正法」といいます。)では、金融サービス仲介業とは、預金等媒介業務、保険媒介業務、有価証券等仲介業務、貸金業貸付媒介業務のいずれかを業として行うことをいうとされています(改正法11条)。それぞれの業務の内容は、概ね、以下、「金融サービス仲介業の内容」のとおりです。なお、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされています(後記3(2)参照)。また、金融サービス仲介業において想定されているビジネスモデルを踏まえると、金融サービス仲介業の業務に「代理」を認める必要性は乏しいとされたため、金融サービス仲介業においては仲介業ではあるもののその業務には「代理」は含まれないこととなりました。
<金融サービス仲介業の内容>
(1)預金等媒介業務
  ・預金等の受入れを内容とする契約の締結の媒介
  ・資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介
  ・為替取引を内容とする契約の締結の媒介
(2)保険媒介業務
  ・保険契約の締結の媒介(損害保険、生命保険)
(3)有価証券等仲介業務
  ・有価証券の売買の媒介
  ・取引所金融商品市場又は外国金融商品市場における有価証券の売買又は市場
   デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引の委託の媒介
  ・有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は有価証券の私募等の取扱い
  ・投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介
(4)貸金業貸付媒介業務
  ・資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介

3.利用者保護の規制の概要
金融サービス仲介業者は、様々なサービスを取り扱えるよう、特定の金融機関に所属することを求められていません(所属制の廃止)。そのため、利用者に損害が生じた場合、特定の金融機関が損害賠償責任を負ってくれるわけではないため、利用者保護の観点により、取扱可能なサービスの制限、利用者財産の受入禁止、保証金の供託義務等の規制が設けられています。具体的には以下のとおり。
(1)登録制の導入
金融サービス仲介業を行うには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があるとされ(改正法12条)、登録の申請手続及び登録拒否事由が定められました(改正法13条、15条)。
(2)取扱可能なサービスの制限
顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされた。顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスの具体的な内容は政令で定められることになった。
(3)保証金の供託の義務付け
所属制を採用せず、仲介業者自らが賠償責任を負うことになる可能性があることを踏まえ、利用者に対する金融サービス仲介業者の損害賠償資力を確保する必要があることから、金融サービス仲介業者は、保証金を供託し、かつその旨を内閣総理大臣に届け出た後でなければ、金融サービス仲介業を行ってはならないとされた(改正法22条1項、5項)。保証金の額は、政令で定められることになった(改正法22条2項)。もっとも、政令で定めるところにより金融サービス仲介業者が損害賠償責任保険を締結し、内閣総理大臣の承認を受けたときは、保証金の一部の供託が不要とされる(改正法23条)。
(4)利用者財産の受入れ禁止
金融サービス仲介業者のビジネスモデルとしては、顧客が様々な金融商品又はサービスを比較検討した上で顧客自身に適したものを選択できるサービスを顧客に提供することが想定されており、このような想定を踏まえ、金融サービス仲介業者がその事業運営上、利用者財産の預託を受ける必要性がそもそも高くないと考えられました。そこで、利用者財産の受入れは禁止されることとなった(改正法27条)。
(5)顧客情報の取扱い
金融サービス仲介業者は、取得した顧客の資産状況等の非公開情報を不適切に利用すると、顧客の保護に欠けるおそれがあります。そこで、その金融サービス仲介業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保することが求められている(改正法26条)。
(6)情報提供義務
顧客に適した同種の金融商品又はサービスが複数ある場合、金融サービス仲介業者は、顧客のニーズを無視して、金融機関から得られる仲介手数料の高い金融商品又はサービスを推奨する可能性や関係の深い金融機関の金融商品又はサービスを勧める可能性がある。そこで、顧客が金融サービス仲介業者の中立性を評価し、自身にあった金融サービスを適切に選択できるように、金融サービス仲介業者は、顧客から求められた場合は、顧客に対し、金融サービス仲介業者が受け取る手数料等の額を開示しなければならないとされた(改正法25条2項)。
また、金融サービス仲介業者は、その金融サービス仲介業務についての重要な事項の顧客への説明をすることが求められている(改正法26条)。顧客が自身にあった金融サービスを適切に選択できるようにする観点からは、「顧客本位の業務運営に関する原則」(平成29年3月30日金融庁)を踏まえ、金融サービス仲介業者には、仲介先の金融機関との間の委託関係又は資本関係の有無、金融商品・サービスの選定理由等についても顧客に対して情報を提供することが望ましいと考えられる。
(7) 仲介する金融サービスに応じた規制
また、金融サービス仲介業者が行う業務の種類に応じて、銀行法、保険業法及び金融商品取引法の規定が金融サービス仲介業者に準用されており(改正法29条、30条、31条)、以下のような規定が適用されることに注意が必要です。
<業務の種類に応じた規制>
①銀行分野の仲介
・情実融資の媒介の禁止等
②証券分野の仲介
・損失補填の禁止
・インサイダー情報を利用した勧誘行為の禁止
・顧客の注文の動向等を利用した自己売買の禁止等
③保険分野の仲介
・顧客の意向の把握
・自己契約の禁止
・告知の妨害の禁止
・不適切な乗換募集の禁止等