コラム

保険募集人に義務化された比較・推奨販売

改正保険業法の施行から6年が経過した。しかしながら未だ一部の保険募集人においては、この比較・推奨販売の正しい説明、募集が行われていない実態が散見され、金融庁・財務局による金融検査やヒアリングでは原点回帰といえる比較・推奨販売の実態に関する体制整備の状況が確認されている。

1.比較・推奨販売とは
比較説明+推奨販売のふたつを意味している。
(1)比較説明では、複数の保険会社(保険商品)を説明する際に、保険商品のパンフレットの保険商品概要に記載されている内容を提示し、保険料の比較だけではなく、そのものの全体像(メリット・デメリットや特徴等)を適切にお客さまに説明し、お客さまの意向に沿った保険商品を選定していただくようにすることが重要となる。要するにお客さまに誤認を与えない説明が求められる。
【監督指針】
「保険募集人の把握した顧客の意向に基づき、保険の種別や保障(補償)内容などの商品特性等により、商品の絞込  みを行った場合には、当該絞込み後の商品」の概要を明示し、顧客の求めに応じて商品内容を説明する。

(2)推奨販売では、特定の保険会社(保険商品)を提案するうえで、自社が何故その当該保険会社(保険商品)を推奨するのか、その根拠を明確にお客さまへ説明し、理解を得たうえで提案を実施しなければならない。ただし、お客さまが保険会社又は保険商品の指名し、説明を求めた場合は異なるため留意が必要となる。あくまでもお客さまが特段の意向や要望がない場合に推奨販売を実施する募集スタイルが本来の在り方となる。

<推奨販売のパターン>
ア.保険代理店独自の推奨理由・基準に沿って保険会社(保険商品)を絞り込んで推奨する。
※当社は・・・の理由でA社の保険会社(保険商品)を推奨する経営方針として・・
イ.保険代理店独自の理由・基準に沿って推奨保険会社(保険商品)を絞り込んだ後、お客さまの意向に沿って特定の保険会社(保険商品)を選定して推奨する。
※当社は取扱保険会社の中で事務に精通しているA社とB社を推奨保険会社とし、当該2社の中からお客さまに意向に基づいた保険会社(保険商品)をおすすめします。

2.推奨販売における指摘事項例
(1)自社の推奨販売方針において推奨保険会社(保険商品)が3社(保険商品)であるものの、お客さまに2社(保険会社)しか提案していない。
<指摘事項>
何故、1保険会社(保険商品)を省いたのか、お客さまにその理由、説明をどのように実施したのか、その記録、証跡が残っていない。また、2保険会社(保険商品)の提案についてお客さまの理解を得ているか否か不明である。

(2)自社の推奨販売方針において推奨保険会社(保険商品)が1社(保険商品)であるものの、推奨保険会社(保険商品)+保険募集人の判断による保険会社(保険商品)1社の計2社を提案している。
<指摘事項>
何故、1保険会社(保険商品)の推奨方針であるにもかかわらず、どういう理由で推奨保険会社(保険商品)以外の保険会社(保険商品)を追加で提案したのか、お客さまにその理由、説明をどのように実施したのか、その記録、証跡が残っていない。また、追加提案した保険会社は顧客のどの意向と合致しているか不明である。

(3)保険募集人において、推奨保険会社(保険商品)で必ず提案、契約をしなければならないと考えて提案している。
<指摘事項>
推奨保険会社(保険商品)=販売しなければならないものと保険募集人の誤認から、適切な意向把握及び情報提供ができていない。
(4)特定の種目について、自社の推奨保険会社(保険商品)以外の保険会社(保険商品)を提案している。
<指摘事項>
何故、推奨保険会社(保険商品)以外を提案したのか、お客さまにその理由、説明をどのように実施したのか、その記録、証跡が残っていない。また、保険会社(保険商品)の選択が適切かどうかの検証ができていない。

3.推奨方針の見直し
推奨販売方針を策定、見直しをするにあたって次の点を考える必要がある。
(1)現在の推奨保険会社(保険商品)は、他の保険会社(保険商品)と比較して顧客本位又は自社の推奨理由を適切に満たしているか。
(2)現在の推奨保険会社(保険商品)に商品改定等が行われ、引き受け困難理由が発生していないか。
(3)過去1年間の販売保険会社(保険商品)を検証して、顧客の意向から考えて推奨保険会社(保険商品)を変更する必要性はないか。

乗合代理店のみに求められる適正な比較説明と推奨提案が、保険募集人単位で異なる対応を行っていないか、見直しを行うべきである。
改めて言うが、改正保険業法が施行されて6年、まだまだ比較説明、推奨販売の意味を理解していない保険代理店・保険募集人が存在するのが実態である。再度、方針の見直し、保険募集人への教育が必要と思われる。
保険会社の数字だけを追いかけさせる教育研修ではなく、本質的な顧客本位の業務運営を実現させるためにも保険募集人への教育研修を外部機関に依頼して、実態を検証してもらうこともひとつと考える。