コラム

金融庁 保険募集人(保険代理店)へ「公的保険制度」の説明を求める

2021年12月28日、金融庁は「保険会社向けの総合的な監督指針」を改定、保険募集人(保険代理店)に対して「公的保険制度について顧客に適切に情報提供を行う」といった規定を盛り込んだ。また、「公的保険を補完する民間保険の趣旨から、保険募集人が制度を適切に理解するよう教育」「顧客が自らのライフプランなどを踏まえ、保障の必要性を適切に理解したうえで契約を結ぶよう配慮する」といった規定も盛り込まれた。
保険業の公共性には「公的保障の補完」という意味合いも含まれることから、今回の改正において、監督指針の中でそれを明確化したものである。

1.保険会社向けの総合的な監督指針の改正のポイント
(1)保険募集人(保険代理店)は募集時に顧客に対して「公的保険制度の説明を適切に行うこと」
(2)顧客自身が「公的保険制度を予め理解したうえで、民間保険の必要性を理解できるようにすること」
(3)顧客にしっかりと「公的保険制度の説明が行えるよう保険募集人への教育を十分に行うこと」

2.公的保険制度の情報提供・説明は生命保険だけではない!
「保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-2 保険約の募集上の留意点(3)①意向把握・確認の方法(抜粋)」において、次のように規定されている。
「意向把握・確認の方法については、顧客が、自らのライフプランや公的保険制度等を踏まえ、自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を適切に理解しつつ、その意向に保険契約の内容が対応しているかどうかを判断したうえで保険契約を締結するよう図っているか。そのために、公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行うなど、取り扱う商品や募集形態を踏まえ、保険会社又は保険募集人の創意工夫による方法を行っているか。」

上記監督指針の内容から、ほとんどの保険募集人(保険代理店)は、「公的年金の受取試算額などの公的保険制度」の言葉が使われていることから、今回の改定においては、生命保険の募集時のみ公的保障制度の情報提供・説明を行えばよい。と考えがちである。しかしながら、「取り扱う商品や募集形態を踏まえ」との言葉の意味を考えると、損害保険の第三分野商品の募集時においても情報提供・説明を行うべきである。と考えることが正しい解釈となる。
実際に金融庁が2021年12月28日、同監督指針の改定内容を公表した後となる、2022年3月11日、金融庁が開設したポータルサイト「公的保険について~民間保険加入のご検討にあたって~」の内容を確認すると、主な民間保険の中に「傷害保険」「労働災害総合保険等」の言葉が並んでいる。

出典 金融庁「公的保険について~民間保険の加入のご検討にあたって~」1頁のみ抜粋

3.「創意工夫による方法」にも注目!
創意工夫による方法とは、保険募集人(保険代理店)が顧客に対して行う情報提供・説明の仕方(金融庁のポータルサイト資料や、保険会社から提供を受ける資料などの活用など)の意味も含まれているわけだが、非常に大切なことは、顧客に対して情報提供・説明をすれば良い。ではなく、その情報提供・説明で顧客が本当に公的保険制度を理解か。理解したうえで民間保険の必要性を感じ当該保険に加入した。という事実である。
そこで保険募集人(保険代理店)は、単に意向把握シートや対応履歴等への記録のみならず、顧客からの証跡をいただく工夫の検討も必要といえるのではないだろうか。そうすることで、募集管理責任者は、保険募集人による適正な情報提供・説明の実施の有無、検証体制につながるひとつにもなる。
そして、この創意工夫による方法を保険代理店の組織全体として実行できるようにするためには、社内教育研修は必要不可欠といえるであろう。

4.公的保険制度の説明状況を含めた保険代理店への一斉調査
2022年6月21日、日本経済新聞に保険募集人(保険代理店)業界を激震させる注目すべき記事が掲載された。それは金融庁・財務局が連携のうえ、保険代理店の動向に監視の目を光らせていく。というもの。
2016年5月29日、改正保険業法が施行され6年が経過したものの、当然に法に従って体制整備に取り組みしている保険募集人(保険代理店)は非常に残念ながら、ごくごく僅かなもの。未だ保険代理店業界は改正法の野放し業界といえる状況であった。そのためこの数年、特にコロナ禍になって以降、保険募集人(保険代理店)に対する苦情が増加(金融庁、ADR、国民生活センター等への申出)しており、さすがに金融庁もこれ以上の野放しは顧客本位の提供につながらないと判断、保険代理店業界の品質改善と高度化に向けた動きを示した。といえる。
金融庁はこれまで都市部の保険代理店を中心にヒアリング、立入検査等を実施してきたが、今夏以降、地方の財務局との連携をさらに強化し、地方を含めた全国の保険代理店に対しても範囲を拡大、聞き取り調査を行い、体制整備や品質改善に向けた取り組みがなされなければ、その後、保険業法第305条の規定に基づき立入検査へ移行していく流れとなる。立入検査の結果次第によっては、金融庁による行政指導以前に保険会社によって保険代理店委託解除の通知を受けるケースも考えられる。(過去当該ケース数十件あり)
やはり金融庁や保険会社は、2025年問題の解決に向けたタイムリミットまで、あと3年であることを意識しているものと思われる。
2022年、保険代理店業界は大きな変化を迎える年になる。そのことをあらゆる情報から予想していた当社ではあるが、法改正、体制整備を甘く考えていた保険代理店も、今すぐ建て直せばまだ遅くないと思われる。