コラム

新規顧客との商談には秘密保持契約(NDA)の締結を考える

2022年4月1日、改正個人情報保護法の施行以降、「新規顧客より商談にあたって、秘密保持契約(NDA)の締結を求められている。どういう条項にしたら良いか、参考になる雛型資料はないか」など、相談を受けるケースが多くなってきている。これは、顧客による個人情報保護の意識にとどまらず、秘密(機密)情報保護を含めた情報資産への管理意識の高まりによる時代の変化といえるのではないだろうか。そこで今回は秘密保持契約(NDA)を詳しく見ていく。

1.秘密保持契約(NDA)とは
秘密保持契約(NDA)とは、相手方に開示する情報の中に含まれる「秘密情報」の取扱いルールを定め、秘密情報の第三者に対する無断開示や、目的外利用を行わないことについて合意する契約書となる。秘密保持契約のことを英語では「Non-Disclosure Agreement」と呼ぶことから、その頭文字をとって「NDA(エヌディーエー)」と通称されることが多い契約である。国内においてもそうした略称が浸透するぐらいに、ビジネスシーンの中で最も締結の頻度が高い契約類型といえる。

2.なぜ秘密保持契約を締結するのか
ビジネスの中では、不利益を被らないようにするために自ら保有する情報を他者に開示することが必要な場合がある。例えば保険代理店のビジネスシーンでいえば、法人顧客が「賠償保険に加入を検討したい。」そういう商談依頼を受けた場合、法人顧客に対して経営状況や自社で考えられる現時点のリスクの聞き取り、把握など様々な場面が想定される。このように相手方から開示される秘密情報について、双方にとって適正かつ合理的な管理を実現するために秘密保持契約が締結される。
一方が情報を開示する場合では、開示側は「漏えいしたら自社の競合優位性が低下するため、不必要に利用してほしくない」と考え、受領側は「有益な情報であれば自社の今後のビジネスのためにも利用したい」と考えるのが通常である。このような双方の立場による考え方の違いを調整して、双方でビジネスを推進するためにはどのような情報管理が必要かを検討し、契約を締結することとなる。

3.秘密保持契約はいつ締結するべきか
秘密保持契約の締結は情報のやり取り、いわゆる開示、受領が発生する前の段階で合意、締結しなければ意味をなさない。何故なら、その合意、締結前に開示された情報は秘密として取り扱われず、受領側に不適切に利用されてしまうなどのリスクが生じうる。また、秘密情報を開示したものの、最終的に商談や取引が成立しなかった場合は、情報の開示側は受領側に一方的に自社の秘密情報を利用されてしまうリスクが生じてしまう。
なお、やむなく秘密保持契約の締結に先立って秘密情報の開示がなされた場合であっても、もちろん秘密保持契約の締結が可能であれば締結することが望ましい。この場合、当該契約においては、契約締結前に開示された情報も秘密情報として取り扱うようにするなどの定めを記載することで、リスクを軽減することが可能となる。

4.秘密保持契約の条項例
秘密保持契約書を作成・審査する上で、確認が必要な項目として、最低限以下の4つが挙げられる。(一般的な契約書条項としては15条ほど)
(1)秘密情報の定義・範囲
※開示側が開示する情報のうち、どこまでの情報を「秘密情報」として取り扱うか明らかにする。
・開示側が開示する情報
・秘密保持契約の存在および内容、ならびに取引に関する協議・交渉の存在及び内容

(2)秘密保持義務
※秘密情報について管理する義務とその方法を定めるとともに、誰まで開示してよいかなど、当事者間の認識相違を防ぐため明らかにする。もし違反した場合のペナルティも明らかにする。
・有効期間は5年程度が標準的で技術情報だと20年又は永久などになることもある。
・秘密保持義務違反をすると差止請求や損害賠償請求を受ける可能性がある。

(3)目的外使用の禁止
※秘密情報についてどこまでの範囲で利用してよいかなど、当事者間の認識相違を防ぐため明らかにする。目的外使用の禁止を定めない限り、受領側が受領した情報を使用することは妨げられない為、使用の禁止を定めておく。

(4)秘密情報の返還・破棄
※契約の終了や開示側からの要請があった場合など、一定の事由が発生した場合において、受領側に対して、秘密情報の返還義務や破棄義務について明らかにする。


秘密保持契約(NDA)は、個人情報保護、漏えいリスクの観点のみならず、企業経営の防衛の観点から求める顧客が増加傾向にあるため、特に新規顧客に対しては、求められる前に締結の提案をすることが、差別化の一歩ではなだろうか。