コラム

保険代理店業界でM&Aが増加

少子高齢化という時代の波に追い打ちをかけるように金融庁の規制強化と新型コロナウイルスの大流行が相次ぎ、保険代理店数は第一・第二分野共に減少傾向ではあるものの、保険業界における市場規模は以前より活発化している。このような社会情勢と需要に対し、特に2021年後半より保険代理店主同士、将来に向けて強い経営基盤をつくることに向けた動き、いわゆるM&A(合併・買取)が増加している。
直近であれば、2022年4月に株式会社フィックス.ジャパン(東京)と株式会社ライフフォースサポート(東京)が両社の新設会社となる株式会社オールワンエージェント(東京)に事業譲渡した件が記憶に新しいところ。
また、保険代理店・金融商品仲介業等向けの外部監査機関である当社に対して、体制整備や品質管理がしっかりとしている保険代理店・金融商品仲介業等を紹介してほしいとの要望・相談が増加傾向にあり、外部監査や法令リスクアドバイザリー・顧問業務のみのならず、M&Aマッチングの対応の支援をしている。
今回は、M&Aを実際に行った保険代理店の店主からいただいたお声を基に何故M&Aを選ぶ声が増えているのか情報を公開します。

一.保険代理店業界でのM&A増加の背景
1.新型コロナウィルス情勢による経営の悪化
・顧客の倒産により保険料収入が低下し事業継続が困難
・従業員の雇用を守るための廃業回避

2.少子高齢化社会
・保険代理店主の高齢化や後継者不在による事業承継問題などを理由とした廃業の回避
・保険会社によるネット加入手続きの加速化や自動運転化による将来の顧客減少を見越し、保険代理店を買収しての顧客増加目的

参照: https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220212_01.html(東京商工リサーチ)

3.金融庁の規制強化とDX化に対しての対応不足
金融庁からの相次ぐ法規制の強化やデジタル化推進に伴う対応が追いつけず事業継続が困難

4.異業種からの新規参入・規模拡大
一から社員教育をする必要性がなく社員教育コストを削減でき、大手企業のノウハウ・システムの入手、販路の確保や拡大ができる

5.本業への資金集中
保険代理店業以外の本業や今後の収益構造、経営リスク考えた新事業へ転換、専念する為の売却

二.保険代理店がM&Aするメリットとデメリット
1.メリット
(1)売り手側
・大手企業の技術・システムを導入できる
・従業員の雇用安定が確保できる
・廃業時の手続きや必要経費の回避(解散登記等)
・売却益で再スタートができる可能性がある
(2)買い手側
・既存事業の拡大(販路の確保・拡大、社員教育のコスト削減)
・新規参入の初期コスト削減(社員教育・顧客開拓のにかかる時間短縮、技術の吸収)
・買い手保険代理店内の従業・現保険募集人のモチベーションUP
・顧客、取引先、金融機関からの信頼向上

2.デメリット
(1)売り手側
・既存顧客・従業員・保険募集人からの反発(契約の解除、離職)
・経営権の縮小
・社内体制の再構築の必要性
(2)買い手側
・売渡後に買収監査で発覚しなかった簿外債務が発覚するリスク
・買取先保険代理店の体制整備・業務品質、これまでの社内教育体制が十分であったかどうか(金融庁からの課題・指摘リスク)

三.M&Aの種類
国内で行われる主な3つの手法とは・・・以下に記載する以外、M&Aの種類には法的にも様々な方式があるので留意してほしい。
(1)株式譲渡(会社ごと売却)
自社の株式を大株主(オーナー)が売却し、会社の経営権を譲渡する手続きとなる。一般の中小企業のM&Aでは大多数がこれにあたる。大株主が入れ替わり買い手企業の子会社となり、従業員の雇用安定や後継者問題解決に繋がる。
(2)事業譲渡(保険代理店の運営権を売却)※保険代理店業界に多いのはこれ!
会社の事業の一部またはすべてを譲渡します(営業権の譲渡) 株式会社幸楽苑ホールディングス(株式会社デン・ホケン)がヒューリック保険株式会社へ事業譲渡したように、多角的な業種を経営する企業が本業に専念する為に、保険代理店業務を他社に任せる選択することが多い。
(3)吸収合併(複数企業の法人格を1つに統合)
・売り手の法人格を消滅させて買い手の法人格だけを残し、合併により消滅した法人格の権利、義務、債務などをすべて合併後に存続させる。

四.M&Aの流れ
M&Aの取り組みの注意点として、法律改正に伴う体制整備等がしっかりとなされていなければ、デューデリジェンス(※買収先保険代理店の価値やリスクなどを調査すること)の結果次第で合意に至らない可能性があることに留意する必要がある。
(1)買収先保険代理店の取り扱い保険会社
買収先保険代理店がノルマ未達成で買収商談中に業務委託権(販売権)を解除されては買収は不成立につながる。契約の移管が可能か否か、必ず保険会社への確認が必要である。いくら保険代理店当事者のみで合併、事業譲渡の話がまとまっていたとしても、元々、保険代理店の顧客は保険会社に権利帰属するため、当該顧客が加入している保険会社が移管手続きを認めなければ成立しないことになる。
※保険代理店当事者で事前のM&Aの商談を進めていくことは重要なことであるが、やり方、進め方を間違えると、取り扱い保険会社から突然、保険会社主導によるM&Aが進められ、自社が思う結果につながらないケースもあるため、注意が必要である。保険代理店の顧客は保険代理店の顧客ではなく、保険会社に帰属することを忘れてはならない。
(2)買収保険代理店の主たる取り扱い分野、契約者の属性と年齢層分布
主たる顧客が法人か個人か、生命保険・損害保険どの保険分野主体なのか。保険代理店と顧客とのグリップ力がどの程度であるか。内容次第で今後の見込み正味収入保険料でも変わってくる。また高齢者の契約者が多い場合は死亡時にコミッションが減少する可能性がある。

キャピタル・ブレインパートナーズでは、保険代理店や金融商品仲介業等のM&A案件のご紹介、マッチングのご支援もしております。金融庁・財務局検査目線による外部監査を行うことで、売却、買収をスムーズに行い、譲渡後、譲受後のリスクを軽減することが可能になります。些細なことでもご相談ください。