―「保険代理店の都合による推奨」が終わるとき―
2024年臨時国会に提出された保険業法の一部改正法案では、「保険代理店の都合・理由による比較推奨販売」を事実上禁止する方向性が打ち出されました。これに伴い、保険業法施行規則の「ハの方式」から「ロの方式」への一本化が見込まれており、損害保険・生命保険を問わず、保険代理店の販売プロセスに重大な影響を与える改正となる可能性があります。
この改正案が正式に可決されれば、保険代理店が「自社の取り扱い商品や契約件数の多さ」「○○保険会社の商品を熟知しているから」「社内の商品選定委員会で選定しているから」「既存契約の更改だから」など、代理店自身の事情を理由に特定商品を推奨することは、原則禁止となります。
■ 平成26年改正で認められた「保険代理店理由の推奨」は、制度的矛盾だった
そもそも平成26年の保険業法改正によって、「比較推奨販売」については、「イ:顧客理由」「ロ:比較理由」「ハ:代理店理由」の3方式が施行規則に明記されました。しかし、このうち「ハの方式」(保険代理店理由)については、「顧客の明確な意向に基づく保険募集」を求める意向把握義務と根本的に矛盾する制度でした。
今回の改正は、その矛盾に明確な終止符を打ち、今後は保険代理店の販売姿勢・プロセスが「顧客本位であるかどうか」が真正面から問われる時代に入ることを意味します。
■ 損保の更改に“前年と同じ保険会社を推奨”は通用しなくなる
多くの損害保険代理店では、特に満期更改時に「前年と同じ保険会社を推奨する」といった慣行が定着しています。
しかし、こうした“保険代理店の業務効率”や“既存契約維持”といった事情を理由とする推奨販売は、改正後には明確に禁止される可能性が高くなります。顧客に対し、「なぜその保険会社を推奨するのか?」という問いに対して、客観的・中立的で、かつ“顧客の利益”に基づく理由を説明できなければならなくなります。
■ 今、保険代理店が備えるべき具体的な取組みとは
この変化に備えるため、保険代理店には以下のような具体的な取り組みが求められます。
1.ヒアリングスキルの強化
・顧客の背景やニーズ、価値観、将来設計を丁寧に聞き出す力の強化
・「真の意向」を探る対話の設計と記録方法(意向把握シート等)の見直し
2.比較資料・募集文書の見直し
・意向に基づく比較理由が明確に示された説明資料の作成
・「なぜこの保険会社か」を合理的に説明できる記述・記録の整備
3.業務マニュアル・販売プロセスの改訂
・旧来の「保険代理店都合による提案モデル」を廃止
・ロジックベースで顧客の納得が得られるプロセス設計の構築
4.募集人教育・研修の強化
・意向把握義務や顧客本位の業務運営の本質を理解させる教育
・対話型営業に必要なスキルを実践で磨く継続的研修
■ 自社でできる限界と、外部アドバイザーの活用
一連の改正は、販売現場の根本的な見直しを求めるものであり、単なる書式変更や文書整備では対応しきれない内容です。特に比較推奨の理由整理や、ヒアリング・提案フローの見直しには、外部の視点からのアドバイスや客観的検証が不可欠です。
当社では、保険代理店様向けに顧問業務サービスを提供しており、顧問契約先には、こうした法改正への対応支援を含めたヒアリング資料、比較推奨テンプレート、内部管理フロー見直し支援などを提供しています。
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