コラム

改正育児・介護休業法(2022年4月1日より順次施行)

2022年4月1日付、改正育児・介護休業法が順次施行された。
しかしながら、内部規程、マニュアル等の改訂、整備。また新制度に関する社内周知や、順次施行に向けた準備、対応がされていない企業が多い。その中でも保険代理店業界は法整備の対応が遅い業界と言われ続けてきているが故、今回はその背景と内容について伝えます。

1.法改正の背景
現代では少子高齢化が大きな社会問題となっている中、育児・介護による労働者の離職を防ぎ、男女ともに仕事と育児・介護を両立させることが重要と考えられてきた。しかしながら、育児休業取得率は男女間で大きな差が生まれ、特に男性の育児休業取得率は、近年上昇傾向にあるものの、未だに低い水準にとどまっている。
これは男性労働者が育児・介護のための休暇・休業取得を企業に取得申請しても、ほとんどが受理、承認されない実情があることが原因と言われている。

厚生労働省(引用)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/03.pdf


こうした状況を受けて、男性の育児休業取得を促進することを目的として、育児介護休業法が改正された。

2.改正法の6つのポイント
(1)「雇用環境整備」「妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知、意向確認の措置」の義務化(※2022年4月1日施行)
ア.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の義務付け
(改正前)研修等の育児休業を取得しやすくする環境整備に関する規定はなかった。
(改定後)新制度及び現行育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置が事業主に義務付けられた。
①その雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
②育児休業に関する相談体制の整備
③その他厚生労働省令で定める育児休業に係る雇用環境の整備に関する措置

(2)有期雇用労働者の育児・介護休業取得の緩和(※2022年4月1日施行)
(改正前)有期雇用労働者の育児休業取得には
ア.雇用された期間が1年以上であること
イ.1歳6か月までの間に契約が終了することが明らかではないこと
(改正後)今回の上記ア.「雇用された期間が1年以上」の要件が、雇用期間の定めのない雇用労働者と同様の取り扱いをすることと定められた。

(3)男性の育児休業取得促進における新制度(※2022年10月1日施行)
ア.対象期間・取得可能期間
(改正前)原則、子が1歳(最長2歳)になるまでの間に1回の育児休業を取得することが可能。
(改正後)上記に加え、子の出産後8週間以内に最大4週間までの育児休業を取得することが可能。
イ.申出期間
(改正前)育児休暇を取得するためには、原則1か月前までの申出が必要。
(改正後)一部例外を除き、育児休暇を取得するためには、2週間前までの申出が必要。
ゥ.分割取得
育児休業を二回に分割して取得することが可能となる。
※後ほど詳細する
エ.休業中の就業
(改定前)育児休業期間中の就労は認められない。
(改正後)事業主との話し合いにより、一時的、臨時的に就労することが可能となった。ただし、恒常的、定期的に就労する場合は育児休業を取得していることにはならない。
~休業中の就業までの流れ~
・労働者が就業しても良い場合は、事業主にその条件を申出
・事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日、時間を提示
・労働者が同意した範囲で就業

(4)育児休業の分割取得(※2022年10月1日施行)
今までは、原則として分割による取得はできなかった。また、1歳以降に延長した場合の育休開始日が、各期間(1歳~1歳6か月、1歳6か月~2歳)の初日に限定されていたため、各期間開始時点でしか夫婦交代ができなかった。
しかしながら改正法により、新設された出生時育児休業制度だけでなく、従前からある育児休業制度についても、2回まで分割して取得することが可能となった。
また、保育所に入所できない等の理由により1歳以降に延長する場合について、開始日を柔軟化することで、各期間途中でも夫婦交代が可能となった。

(5)育児休業給付に関する所要の規程の整備(※2022年10月1日施行)
2022年10月1日改正法の施行に合わせて、所要の規程(出生時育児休業(産後パパ育休)に関する新設規程及び育児休業の分割取得に関する改正規程)が整備されることとなった。またこれに合わせて、雇用保険法における育児休業の分割取得、産後パパ育休に対応した育児休業給付金が給付されることとなる。
また、出産日のタイミングによって受給要件を満たさなくなるケースを解消するため、被保険者期間の計算の起算点に関する特例が設けられることとなった。

(6)育児休業取得の状況の公表義務化(※2023年4月1日施行)
改正法により、従業員1,000人を超える企業では、年1回、育児休業の取得状況について公表することが義務付けられることとなる。
具体的に公表が義務付けられる事項として、男性の「育児休業等の取得率」又は「育児休業等及び育児目的休暇の取得率」と省令で定めらた。

以上6つのポイントについては、令和4年4月1日から3段階で順番に施行される。詳しくは厚生労働省の資料を参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf

3.企業として必要な対応
今回の育児・介護休業法の改正に伴い、従業員を抱える企業側も様々な対応が必要となる。
(1)「就業規則」や「労使協定」の見直し
今回の法改正で、現行の「就業規則」や「労使協定」と合わない部分が発生する可能性があることを認識しておくことが必要である。特に育児休暇の取得申請期限や分割所得については今までの育児休暇のルールと異なるため、就業規則や労使協定の文面を修正する必要が出てくる。

(2)会社役員や人事部門、従業員との認識合わせ
ルールが変わったことで、社内全体で認識合わせをすることが必要である。特に役員や労務管理責任者や従業員の就業を管理する部門では、新たなルールを知っておかなければ、育児休暇を認めなかったり、分割取得を拒否したりしてしまうケースも考えられる。最悪の場合はマタニティハラスメントやパワーハラスメントに発展し、従業員との大きなトラブルに発展する可能性もあることから、早めの社内周知が必要である。

(3)正確な就業管理や育児休暇取得日数の把握
改正法によって、2週間前からの育児休暇の取得申請が出せるようになり、また分割取得が可能になったことで、「いつから育児休暇を取得するのか」「現在何日取得しているのか」など、把握、管理がより重要となるため、今のうちにチェック、管理態勢の見直し、強化を図ることが必要といえるだろう。

4.違反した場合に科せられる企業への処分
企業が育児・介護休業法のルールに違反した場合、いくつかのペナルティがある。
(1)違反企業の公表
育児・介護休業法のルールに従わなかった場合に、まず発生するのが「是正勧告」となる。これは厚生労働省から違反企業に対して、通達がなされる。その上で改善や是正がみられないと判断された場合に「社名公表」となる。
この社名公表によって従業員からの信頼を失うことは当然のこと、社会からのイメージも著しく低下し、新たな従業員の採用や取引先との関係にも大きく響くと考えるべきである。是正勧告が来る前に、早急に内部体制を整えることが重要と言える。

(2)過料の発生
社名公表の他に科せられる処分として「過料」がある。これはルールに遵守しない企業や、是正が見られない企業に対して厚生労働省(大臣)から科せられる「違反金」のようなものとなる。
金額は20万円と企業規模によってはさほど大きな金額と思わない企業もいるかもしれないが、何より企業としての信頼を損なう可能性に繋がるため、早急に改善すべき事項と言える。

今回は、育児・介護休業法の改正ポイントについて紹介しました。
企業は、企業運営に係る改正法はそのすべてを把握して環境整備をしなければならない義務があることを忘れてはなりません。法改正への対応や従業員への周知等でお悩み等ありましたら、何なりとご相談ください。