──2024年4月 個人情報保護法施行規則改正で広がる漏えい報告義務と保険代理店の実務見直し
2024年4月1日、個人情報保護法施行規則の改正が施行されました。
この改正の最大のポイントは、漏えい・不正アクセスなどのインシデント発生時における、個人情報保護委員会への報告および本人通知の義務対象が、「個人データ」から「一定の個人情報」にまで拡大されたという点です。
■ なぜ「個人データ」だけでは不十分だったのか
──背景にある“実態とギャップ”
従来の制度では、「個人データ(保有個人データ)」――つまり、継続的に保存・管理される個人情報のみが漏えい時の報告・通知義務の対象でした。しかし、実際の漏えい事故の多くは、“一時的”に取得・使用した個人情報の管理不備や誤送信に起因するものであることが、数多くの事例から明らかになってきました。
例えば:
○見積もり対応で取得した免許証の画像
○医療情報を含むヒアリングシート
○一時保管された保険申込書や診断書の写し
これらの情報は、多くのケースで「保有個人データ」に該当しないため、従来は漏えいしても報告・通知の義務は発生していませんでした。
しかし、影響を受ける個人にとっては、“一時的”な取得かどうかは関係ありません。
情報の漏えいによって生じるリスクは、継続保有されている情報と同等、あるいはそれ以上であることも少なくないのです。
そのため今回の改正では、「個人データ」の枠を超え、以下のいずれかに該当する”一定の個人情報”も、報告・通知の義務対象とすることで、実効性のある保護体制の構築が狙われました。
■ 「一定の個人情報」に該当する、保険代理店の具体的な取り扱い例
今回の改正によって報告・通知の対象となるのは、次のような一時取得であっても、漏えい時に本人の権利利益を害する可能性が高い情報です。保険代理店の業務において、特に以下のような場面が該当します:
○運転免許証・マイナンバーカードなどの画像を取得した場合
見積依頼や契約準備の際、顧客からLINEやメールで証明書画像を送ってもらうことはよくある業務ですが、一時的な保存でも、外部に漏えいすれば報告義務が発生します。
○ヒアリング内容に含まれる「要配慮個人情報」
持病・既往歴・障害・要介護状況など、火災保険や生命保険設計時のヒアリングにおいて記録されがちな内容。医療情報等は漏えいリスクが極めて高く、対象拡大の中核となる分野です。
○事故受付時の診断書・保険証の写しなど
保険金請求や人身事故対応などで取得する健康関連書類は、まさに「一定の個人情報」の代表例です。
■ 「今は保有していない」では通用しない
──代理店が直面する3つの誤認識とそのリスク
改正の趣旨を踏まえ、保険代理店にありがちな誤認識を明確に正す必要があります。
- 誤認識①:「削除済だから対象外」
→ 取得していた事実があれば報告対象。履歴管理が不可欠。 - 誤認識②:「委託先がミスしたから関係ない」
→ 情報漏えいの責任は委託元(代理店)が負う。業務委託先の管理も義務。 - 誤認識③:「事故が起きてから考えればいい」
→ 漏えい時には“24時間以内”に委員会へ速報が求められる。初動体制が問われる。
■ 保険代理店が今すぐ着手すべき5つの実務対応
- 「一時取得情報」の整理・分類・記録の義務化
→ 取得した事実自体をトレースできる記録の整備が必要。 - 「LINE・個人端末利用」の廃止または制限
→ 顧客情報の送受信に私的ツールを使うことは原則NG。 - 「誤送信・紛失時」の対応マニュアル作成と教育
→ 報告・通知体制の整備と訓練が不可欠。 - 「取得時の同意取得」と「情報提供範囲の説明」
→ 相見積の場面などで競合他社情報を含む場合、明確な同意と文書化が必要。 - 「社内教育の再徹底」
→ 社員・アルバイト・外部提携先を含め、情報管理教育と監査を体系化すること。
■ 情報管理は「業務品質」の核心
──顧客本位の業務運営の真価が問われる
個人情報の管理レベルは、単なる法令対応ではなく、保険代理店としての信頼度を測るバロメーターでもあります。
「顧客本位の業務運営」を掲げるのであれば、顧客から預かる情報の管理に最大限の注意と準備を払うことは、今後のビジネス基盤そのものです。
今回の改正を“他人事”にしない。
「守る意識」から「備える体制」へ。
それが、今まさに求められている保険代理店の責務です。
■ 当社が提供できるサポート
こうした背景を踏まえ、当社では保険代理店の皆さまに向けて、次のような実務支援を行っています。
- 個人情報管理体制の構築支援
漏えい時の報告・通知体制や、情報管理フローの整備、記録保存ルールの設計などを含む全体的な支援。 - 社内教育・研修プログラムの提供
情報漏えいの具体的なリスクや改正内容を踏まえた、社員・パートスタッフ向けの研修コンテンツ。 - 緊急対応マニュアル・報告書テンプレートの提供
万が一の漏えい時に備えた、実務に即したマニュアルや、報告・通知に使える様式を策定、提供します。 - 外部監査・点検サポート
保険代理店における個人情報の取り扱い実態を客観的に確認し、改善点を洗い出す外部監査の実施。
改正を契機に、ぜひ一度、自社の管理体制を見直してみてください。