コラム

顧客情報の取り扱いが“競争法違反”につながる時代へ

カルテル問題を機に見直す、保険代理店の情報管理体制と相見積の取り扱い

2023年末から2024年にかけて、損害保険業界に激震が走りました。大手損害保険会社の一部が、法人契約の保険料水準を事前に調整し合う、いわゆる「カルテル行為」を行っていた事実が次々と明るみに出たのです。この事態は、業界の信頼を根底から揺るがすものであり、今後の制度改正や監督行政のあり方にも大きな影響を及ぼすものと見られています。

この問題を受け、金融庁や公正取引委員会は、業界全体に対し、競争の公正性を確保する観点から、保険代理店を含むすべての関係者に厳格な情報管理と適切な対応を求めています。

「相見積の情報提供」にも独禁法のリスク

特に注意が必要なのが、法人契約や団体契約等における「相見積」の場面です。保険代理店が複数の保険会社から見積を取る際、顧客から取得した条件や過去の契約情報、他社の見積水準などを共有する行為には、慎重な対応が求められます。
仮に、競争関係にある保険会社間で「競争関係に関わる情報(例:見積額や算出根拠等)」が不適切に共有された場合、それが「カルテル的行為」や「情報交換型カルテル」とみなされる可能性すらあるのです。
これまでは、こうした情報共有が慣例的に行われてきたケースも少なくありません。しかし、今後はこの“慣習”こそがリスクになり得ます。保険代理店は、以下の点において情報の区別と適切な取り扱いが強く求められます。

■ 独占禁止法上、明確に区別すべき情報の2分類

1.競争関係情報
 他社見積水準、保険料率、割引率などの、価格形成に影響する情報
 → 原則、他社への提供や共有はNG

2.競争関係以外の情報
 被保険者情報、補償ニーズ、リスク情報など
 → 取扱いには注意を要するが、適切な同意があれば共有可能

情報管理の基本は「同意」と「記録」

こうしたリスクを回避するために、保険代理店においては次のような取り組みが急務です。
顧客からの明確な同意取得(書面・電磁的方法含む)
取得情報の内容と提供範囲を記録・保存
競争関係情報とそれ以外の情報を明確に区別
職員への独占禁止法や個人情報保護に関する研修の実施

特に法人契約を扱う保険代理店では、相見積を前提とした情報提供や照会が日常的に発生します。そのたびに、情報の区分と同意の有無を確認するルールを整備しておく必要があります。

情報漏えいは信頼喪失に直結する

一度でも、保険代理店が提供した情報が不適切に扱われ、それが競争法違反と疑われる事態になれば、行政指導や調査対象となる可能性もあります。さらには、顧客からの信頼を失うだけでなく、取引保険会社の評価にも影響しかねません。
カルテル問題の再発を防ぐのは、保険会社だけの責務ではありません。保険代理店こそが、健全な市場競争を支える「最前線」であり、顧客の情報を守る「最後の防波堤」なのです。


ご相談はお気軽に

当社では、保険代理店の皆さま向けに、顧客情報管理体制の構築支援や、相見積に関する同意取得書式の整備、社内教育資料の提供などを顧問契約先に提供しています。
「これで本当に大丈夫なのか?」と不安に思ったときは、ぜひお気軽にご相談ください。実務に精通した専門家が、保険代理店の現場に寄り添って対応いたします。