2025年3月に損害保険協会が公表した「募集コンプライアンスガイド(情報管理版)」は、乗合代理店に対して「情報管理のあり方を根本から見直すべき時が来た」ことを明確に示す内容です。
とりわけ、継続・更改時の比較見積もりを実施する際の情報提供ルールについては、これまで慣習で済まされてきた運用を完全に改める必要があります。
「説明していない」「同意は暗黙のもの」「代理店の裁量」──これらは、今や通用しない時代に入りました。
本コラムでは、ガイドの背景と具体的な対応策を整理し、代理店が今直面しているリスクと、取るべき対策を明確にします。
【なぜ今、情報管理が問題視されているのか?】
乗合代理店における以下のような事例が、業界全体の信頼を揺るがしてきました:
○お客さまの同意を得ないまま、他の保険会社に個人情報を提供
○更改時に契約保険会社以外の見積書を無断で作成
○保険会社システムにお客さま情報を入力する際の説明不足によるトラブル
○出向社員を介した不適切な情報利用
これらの問題に対し、一部保険会社には金融庁から業務改善命令が出されるなど、深刻な対応が求められてきました。
このような経緯を受けて、損保協会は「募集コンプライアンスガイド(情報管理版)」を通じ、乗合代理店に対して情報管理の最低限の基準を明文化しました。
【比較見積もりに伴うお客さま情報の提供は「委託」──しかし…】
乗合代理店では、更改時に保険料比較のため、他社保険会社にお客さま情報を提供して見積書を作成することがあります。これは保険会社から提供されるシステムを用いる場合も含め、「委託」に該当し、個人情報保護法上の「第三者提供」ではなく、法的には情報漏えいには該当しません。
とはいえ、お客さまの意向に反した見積もりや、情報提供についての説明不足は、コンプライアンス違反とされる可能性があります。
ガイドでは、「説明して理解を得ること」が不可欠であると強調されています。
【見積もりの前に行うべき「5つの説明事項」】
比較見積もりを行う前には、必ず以下の5点についてお客さまに説明し、理解を得ることが求められています。
1.利用目的
代理店が定める個人情報の利用目的を明確に伝える。
2.情報提供の有無と理由
見積もりのために、お客さま情報を保険会社に提供すること。
3.乗合代理店としての立場
複数保険会社の募集を受託しており、他社商品を案内することがある点、およびそのためにお客さま情報を提供すること。
4.情報提供先での取扱い方針
提供先保険会社は、試算以外の目的では使用せず、適切に管理していること。
5.情報提供の拒否権
特定の保険会社への情報提供を希望されない場合は、その旨を申し出ることができること(誘導や誹謗中傷的な説明は厳禁)。
加えて、お客さまからの情報提供拒否の意思表示があった場合には、その事実を記録・管理し、代理店全体で共有する仕組みが必要です。
【乗合代理店が今すぐ取るべき3つの対策】
① 事前同意を得る業務フローの構築
比較見積もりを行う前に同意を得るため、**社内での「意向確認」→「説明」→「同意取得」→「記録」**の流れを明文化してください。
当社では、上記5点の説明を踏まえた「意向把握シート」や「最終確認書」を提供しており、顧問先代理店のルール整備を支援しています。
②情報管理ルールと監査体制の整備
○不要な情報アクセスを防ぐ権限管理
○提供先保険会社や外部関係者へのアクセス制限
○内部監査の定期実施と記録の保管
これらが形だけになっている代理店は、行政指導のリスクが現実化します。
③募集人への教育と意識付け
○最新ガイドラインに基づく定期的な研修の実施
○過去の違反事例を用いたケーススタディ
○管理者が個別面談を行い理解度を確認するなどの仕組み化
現場の無理解・誤解が、最も大きなリスクです。
【「何をすればいいのか分からない」保険代理店様へ】
今回のガイドで示された内容は、一度ルールを整えれば終わりではなく、常に「運用されているか」が問われます。
「重要なのは分かっているが、何から始めていいか分からない」──そのような保険代理店様には、当社が以下の支援をご提供しています。
✅ 情報提供・同意取得フローの設計支援
✅ 社内文書(説明シート・確認書)の提供と活用支援
✅ 募集人研修と運用状況の定期レビュー
✅ 監査の視点でのチェックリスト整備と運用サポート
【最後に:この変化は、一過性ではありません】
今回のガイドは、単なる「ルールブック」ではありません。代理店の信頼の根幹である「情報管理」の再構築を迫る、構造的な警鐘と考えられます。この変化に真摯に向き合わなければ、顧客からの信頼も、保険会社からの委託も、将来は守れません。
「うちは大丈夫」と思っている今こそ、見直すべきタイミングです。
ぜひ一度、情報管理体制を見直してみてください。
その一歩が、御社の将来を守る確かな礎となるはずです。