コラム

保険募集人の高齢化に保険代理店主はどう備えるべきか

2025年現在、保険代理店の経営環境は大きく変化しています。中でも見過ごせないのが、「保険募集人の高齢化」という、これまであまり語られてこなかった内部リスクです。
高齢のお客様には、認知機能や判断力の低下を想定した「きめ細やかな対応」が求められるというルールが業界にはあります。ところが、その“対応する側”である保険募集人自身が70歳を超えているケースが、現場では少なくありません。
保険募集人は業界資格であり、年齢による資格制限はありません。しかし、実際には保険募集人自身の判断力、記録の正確性、苦情対応の柔軟性、業務改善への理解と対応力など、年齢によるパフォーマンスの影響が無視できないレベルに差し掛かっていることが、保険会社や金融庁の現場感覚として蓄積されつつあります。

「私はプロだから大丈夫」-その自負が最大のリスク-

特に業界歴数十年、70歳以上の募集人からはよく次のような言葉を耳にします。

「私はこれまで一度もお客様からクレームを受けたことがない」
「すべてのお客様が私を信頼してくれているから契約してくれている」
「私は長年プロとしてやってきた。だから問題ない」

これは、まさに自負心からくるものでしょう。しかし現実には、この「問題は起きていないはず」という自己判断こそが、保険代理店経営上、もっとも見えにくく、もっとも大きなリスクになっているのです。
なぜなら、高齢の募集人に関する苦情やトラブルは、表面化しづらいからです。本人に直接指摘するのは顧客にとっても心理的なハードルが高く、周囲も「今さら言っても…」と及び腰になります。そのため、本来は改善すべき点が長年見過ごされ、放置されているケースが少なくありません

■一般企業との「定年感覚」のズレが、重大リスクを生む

一般企業においては、定年は65歳。以降は1年更新などの嘱託雇用とし、仕事の範囲や内容が縮小されたり、制限されたりします。
一方で、保険代理店では法人格があることを理由に、定年制度を形式的にしか設けず、嘱託になった後も実務上は何ら変化なくフル稼働させるケースが散見されます
これは、一般事業会社と金融事業者としての保険代理店の「責任の重み」の違いに照らすと、大きな問題です。
保険代理店は、金融庁の登録を受けた「金融商品取引の担い手」であり、高齢者募集においては、より高度な判断力と説明責任が求められる立場にあります。そうであれば本来、定年後の嘱託雇用においては、募集範囲・責任範囲・指導体制の在り方を厳格に見直すべきなのです。

■金融庁も長年問題視-業界の”抵抗”と今後の再浮上の可能性-

この「高齢募集人」問題、金融庁もかねてから問題意識を抱いています。
実際、損害保険の募集人資格は5年更新制となっており、業界の平均年齢が60代前半に達していることから、数年前には「65歳を上限とし、それ以降は1年ごとの更新制、資格保持上限は70歳までとする」という案が、金融庁と業界団体の間で協議されたこともありました。
しかし、当時この案には業界団体が猛反発し、「顧客保護よりも募集人保護を優先した」とも言われています。また、生命保険の募集人資格については、そもそも更新制ではないという構造的な問題があり、これに対しても大きな改革案が検討された時期がありましたが、こちらは大手国内生保各社が強く異を唱え、結果的に見送られたという経緯もあります。
とはいえ、保険業界のあらゆる問題が浮きりになり、さらに今後の保険業法改正の流れや、顧客本位の業務運営に関する原則の強化、販売品質への視線の厳格化が進む中で、この「高齢募集人の資格・更新・制限」に再び制度的なメスが入ることは十分に考えられます
過去の「顧客本位の業務運営」のレビューでも、高齢募集人が過去の慣習にとらわれ、意向把握や比較推奨、記録作成のルールを守れていない事例が複数報告されてきました。そして今、改正保険業法施行を見据え、金融庁が募集品質・教育・管理体制の“再構築”を促す流れの中で、「高齢募集人の業務管理」も明確に指摘・評価される対象になってきています。各保険会社もまた、「指導体制の整備」「募集資格の更新制導入」「特定年齢以上の定期確認」など、独自の対応を模索し始めています。

■最後に-「社内だけでは変えられない課題」こそ、外部の力を活用すべき

保険募集人の高齢化がもたらすリスクは、目に見えにくく、かつ保険代理店内部では指摘・是正しづらいテーマであるがゆえに、放置されがちで、かつ深刻なトラブルに直結するリスクを含んでいます。
経験と信頼に裏打ちされたベテラン募集人の価値を守るためにも、組織としての視点で、客観的なリスク管理と対策が不可欠です。こうしたとき、当社のような外部監査機関や体制整備の専門家を活用することが、リスクの可視化と合理的な改善の第一歩になります。
「どのような観点でチェックすべきか」「どう社内に伝え、どうルール化すべきか」といった課題に対して、金融庁や保険会社の監督・審査の視点を踏まえた支援を提供できることが、私たちの強みです。
保険代理店が今後も地域に根ざし、信頼される存在であり続けるために──
自社の中では言いづらい問題こそ、第三者の専門性を活かすタイミングかもしれません。